【感想・考察】『いつかの人質』のタイトルの意味は?<ネタバレ>

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こんにちは、ニンジャです!
今回は、芦沢央・作『いつかの人質』という作品の感想・考察をご紹介します。

この記事は『いつかの人質』を読み終わった方向けに書いています。
映画を見た後、友達と感想を語り合うように、『いつかの人質』の感想を語り合えたらと思ってます!(なのでコメントなどで本の感想もらえたら喜びます)

ネタバレしてます。未読の方は読まないでください!

『いつかの人質』のあらすじ


まず簡単にあらすじをおさらいしておきます。

宮下愛子は小さい頃、誘拐事件に巻き込まれ両目を失明してしまいます。
そしてその12年後、再び誘拐されることに。
一方、漫画家の江間礼遠は失踪した妻を捜し回っています
その失踪した妻・優奈は、12年前に宮下愛子を誘拐した犯人の娘でした。
誘拐事件と失踪。この2つは何か関係をしているのか…?

といった感じがネタバレ無しのあらすじです。
すでに読み終わった人しか見ていないと思うので、ネタバレをすると

妻を真剣に探してもらうには、妻を刑事事件の容疑者にするしかないと思い立った江間礼遠が、宮下愛子を誘拐した犯人でした。
そして、江間礼遠は妻の優奈と再会できるのですが、、、。

といった感じですかね。。

これから詳しい感想・考察は、書いていきたいと思います!

『いつかの人質』の感想・考察

1.すべての設定・情報が活かされたミステリー

まず抱いた感想がこれです。
出てきた全ての設定・情報が無駄なく物語の展開に生かされているということです。

一番分かりやすいのが、宮下愛子の失明
12年前に宮下愛子が誤って連れて帰られて、階段から落ちてしまいます。
そのせいで失明してしまうのですが、はじめはそこまで気に留めていませんでした。

しかし、この失明という設定こそが、「前半は優奈が犯人だとミスリーディングさせて、真犯人は性別も違う江間礼遠だった」というオチに繋がります。
もし宮下愛子が失明してなかったら、宮下愛子目線の描写はできなかったと思います。

他にも愛子が閉じ込められたお風呂場に、シャンプー・リンスだけでなく固形石鹼や洗顔フォームが置いてあったことも優奈が犯人というミスリーディングにつながります。
また、江間礼遠が福祉施設で働いていたということ・誘拐犯が愛子を連れ去るときに「あなたから見て十時の方向にスタッフ用のトイレがあるから」と言ったことから江間礼遠が犯人である伏線も残されています。

「ブラックパス」というタバコも優奈が吸っているものと印象付けられていますが、江間礼遠も吸っていることでミスリーディングもしつつ、江間礼遠が犯人である伏線の役割も果たしています。

どのピースが欠けても完成しない、ジグソーパズルのような作品だなぁというのが読み終わってまず抱いた感想でした。

2.”いつかの人質”の意味とは?

”いつかの”・”人質”という言葉に感じる疑問

つぎに、”いつかの人質”というタイトルの意味について考えを書きたいと思います。

途中まで読んで、改めてタイトルを見たときに「なんか変なタイトルだなぁ~」と思いました。“人質”というか”誘拐”でしょ、と。

物語の内容的に、人質にとって何かを要求するという目的は見られません。
”いつかの”という言葉がついているので単純に考えて、”いつかの人質”=”12年前の愛子が誘拐されたこと”と考えられますが、あの誘拐事件はたまたま連れて帰ってしまって、仕方なく愛子を人質にした誘拐事件を装ったという感じなので、”人質”という言葉は似合いません。

江間礼遠が起こした現在の誘拐事件も、妻・優奈を容疑者にするために誘拐しただけなので、愛子を人質にとってどうこうするといった感じでもありません。

ではこの”人質”というのはどういった意味なのでしょうか…?
僕個人的な考えを次の節で書いていきます!

それぞれの人の”人質”

では、”人質”はどういう意味か?
また、”いつかの”とはどういう意味かについて考えを書いていきます。

“人質”とは、2組の家族(宮下愛子と両親・江間礼遠と優奈)に存在するものだということです。

優菜にとっての”人質”

優奈にとっての人質は、夢です。
優奈は漫画家になるという夢を持っていますが、あまり才能がなく、漫画家として人気になることができません。

物語の終盤で優奈は夢を諦めたがっていたことが明かされます。
ホストに通い、借金をしたのも礼遠に「夢とは関係ないところで私に失望して見限ってくれるのではないか」と思ったからでした。

優奈はなにか理由を付けて、夢を諦めたかった。
頑張ればいつか叶うという、”いつかの”呪縛から抜け出したかった
江間礼遠がそれを許さなかったので突然失踪したのでした。

しかし物語の最後の最後で、優奈はまだ漫画のコンテストに原稿を送っていることが分かります。そして、物語は優奈の心の中の言葉で締めくくられます。

いつか、こんな日々が報われるときが来るんだろうか。
いつか、 あの時間があったからこそ今の自分がありますと言えるようになるんだろうか。
ここであきらめなければーーー
いつか。

『いつかの人質』芦沢央・作
江間礼遠にとっての”人質”

江間礼遠も優奈の夢を人質に取られていますが、優奈とは少し関わり方が違うと感じました。

江間礼遠は、人の感情の機微を読み取ることが苦手な人物です。
それは、礼遠が作画を務める人気漫画『コミット・ライダー』の原作者・結城りくの言葉でも分かります。

何て言うか、 そういう純粋すぎるっていうか、素直すぎるっていうか、言われたことをそのままに受け取ってしまう感じが江間さんにはあったような気がします。

『いつかの人質』芦沢央・作

こういう性質の持ち主のため、優奈が夢を追いかけているように見えて諦めたがっているという感情の機微には気づかなかったのかもしれません。

また、江間礼遠は、目的を達成するためには手段を選ばない人間です。
それは優奈を見つけるために誘拐事件を起こしたことからも明らか。

江間礼遠は、優奈の夢を愚直に信じ、どんな手段を使っても(自分の母親が起こした事件を許可なく題材にしても、です)叶えさせるということに囚われていたと思います。

宮下家にとっての”人質”

宮下家にとっての”人質”は、愛子の目が不自由であることです。

宮下愛子は、目が不自由ということもあり、母親に頼りっきりの生活を送っていました。
何かあれば母親が助けてくれる、と思いながら生活していたのです。
目が不自由である、そしてそのために母親を頼り切っているということがある種の人質のようになっていたと感じられます。

物語では愛子が犯人の特徴など事件の様子を毅然と語っている姿が描写され、この点を解消したことも描かれています。

また、愛子の両親も同じく愛子の目が不自由ということを人質のように感じています。
愛子の父親は、自分の娘の目が不自由であるということを周囲に隠して、嘘をついています。
母親も同様に目が不自由であることから、愛子を守るという名目で閉じ込め、愛子を守っている自分に陶酔しています。

宮下家は、愛子の障害という”人質”を抱えていると感じながら、どこか違和感を持って暮らしていました。

次に読むならコレ!

さいごに

長々と書きましたが、最後まで読んでいただきありがとうございます。
芦沢央さんの作品は初めてだったのですが、すごく面白かったと考えを共有したい!という気持ちにかられたので、書いてみました。
皆さんもコメントなどで考察・感想などを送っていただけると喜びます!
Twitterでもいいのでぜひ~~。

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